大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)3828号 判決
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〔判決理由〕一、まず、原告が被告によつて破壊されたと主張するところの、訴外甲男との結婚生活の内容を検討するに、<証拠>によると、昭和三九年八月末日ごろ、原告と甲男とは、訴外乙の仲介により、ともに婚姻(再婚)の意思の下に見合いをなし、同じ富山県人ということもあつて話は順調に進行し、原告においては甲男の二人の子供とも会つて話合い、同人らの納得を得、さらに自身の両親弟妹らの承諾をも得たところから、同年九月一八日、郷里の富山において双方の親戚出席立会のうえで結納式と称する婚約の式を行ない、ここにおいて甲男は原告に対し、原告と婚姻するについては正式に婚姻届をなすことなどを誓約し、同年一〇月一日以降両者は大阪市西成区鶴見橋北通りの甲男方で同人の二子とともに同居し、同月二五日には同所において原告の両親、姉らの出席の下に結婚式を挙行し、昭和四〇年二月ごろまで同居を継続したが、その間婚姻届はなされなかつたものであることを認めることができ、右認定を動かすに足る証拠はない。右事実によると、原告と甲男との関係は、婚姻届こそなされてはいないが、実質的には婚姻であるところの、いわゆる内縁関係であつて、かつ単なる私通関係に非ざるものと解すべきである。
二、次に、甲男との右婚姻関係は被告の不法行為によつて破綻せしめられた旨の原告主張につき検討を加える。
(一) <証拠>によると、甲男は、被告が昭和三九年八月ないし一〇月ごろ訴外丙に宛てて、原告はかつて石川県片山津温泉において売春婦をしていたことがあり、盗癖を有し、枕探しをしたことがあるなどと書き送つた葉書を読むに至つて原告に対する態度を一変させ、そのようなことをする女は子供の教育上よろしくない、たとえ嘘であつても子供には知られたくない、火のないところに煙は立たないと云つて原告を責め、加えるにいささか酒乱の癖があつたところから、酒を飲んでは被告の右葉書をたてに取つて難詰し、暴力を振い、出て行け呼ばわりをし、はてには自ら家を出て帰宅せぬまま、電話で汚らわしい女がいる間は帰らないと告げたりし、昭和四〇年二月三日には結婚四ケ月にして原告をして実家に帰ることを余儀なくせしめ、以後両者は別居したまま互に婚姻を継続する意思を全く喪失したものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によると原告と甲男との内縁関係はすでに解消しており、これが解消するに至つたについては、被告の訴外丙に対する右の葉書が相当な原因を与えたことが明らかである。
(二) そして、<証拠>によると、原告は初婚に破れた後石川県片山津町で旅館女中をしていたがやがて来阪し、旅館女中や旅館主の妾になつたりしているうちに被告と知合い、昭和三七年一二月ごろ以降は被告に妻子あることを知りながらこれと情交関係を持つに至り、金銭を受けることを反対給付として被告の妾となつたものであること、ところが昭和三八年五月ごろから被告より経済的に得るところが少くなつたのみでなく、被告には他にも古くからの妾が居ることが分つたため、被告と別れようと思料するに至り、昭和三九年夏ごろ、その旨を被告に対し告知したところ、その同意の意思表示を得ることはできなかつたけれども、同年八月ごろから被告の足が遠のいたため、被告との関係はほぼ清算できたものとして、当時から話が始まつた前記甲男との結婚の方に動いたものであること、しかるに被告は原告と別れる気はなく、そのため原告の結婚話をこわしてやろうと考え、同年八月から一〇月にかけて、訴外丙をはじめ四名の者に対し、前(一)項認定のような事実を記載した葉書や封書を到達せしめて原告を中傷したのであるが、これは事実としては虚偽の事実であり、かつ右四名の者を選んだのは、これらに宛ておくと原告の結婚話の相手に告口されて、結婚話がこわれることを予想したからであつたことを認めることができる。……そうすると被告が訴外丙に対して原告を中傷する葉書を送つた行為は、原告との妾関係という違法な関係を継続せんがために、原告の結婚話をこわすことを意図した違法な行為であると解すべく、かかる行為は、結婚話が成立してすでに内縁関係に入つた者に対し、その内縁関係を破綻せしめる形において損害を生ぜしめたとしても、特別な事実の主張、立証のない本件においては、なおその間に因果の関係を認むべきことは云うまでもない。
三、以上のとおり、被告は原告との間の妾関係という違法な関係を維持せんがため、原告に生じた結婚話をこわそうとして誹毀文書を送付し、その結果原告の内縁関係を不法に侵害したものである。而して右内縁関係の破綻についての甲男に関する有責事由その他特別の事実については、二項中に認定したもの以外は主張、立証がないので、これ以外は全て被告に帰責せられる。このようにして、本件に表われた一切の事情を考慮するとき、原告が被告の右不法行為によつて蒙つた損害は、金二〇万円をもつて相当とすると解すべきである。(橋本喜一)